映画『バタリアン』で英語を学ぼう!

モンスターの呼称も、セリフの細かいところも、そもそもタイトルさえも原語無視の名翻訳!海の向こうで「バタリアン」と言っても通じないので気を付けましょう!

英語から日本語への翻訳は、難しいですよね。

わかりきっていることですが。あらためて。

特に、映画の翻訳などは、

・そのまま直訳したら、日本の観客にはうまく伝わらず、ヒットしない
・かといって、原語(英語)からあまりにも飛躍してしまうと、もとの制作者の意図と離れてしまい、それはそれで問題

という二重苦の中でやっているわけで。それゆえに、「名訳」も、やむをえざる「珍訳」もどうしても出てきてしまう世界なのでしょう。

ですが、この『バタリアン』。日本の「映画翻訳の歴史」をめぐる本などというものがもしあったら(ひょっとしたらもうあるのかもしれませんが!)、ぜひ、名事例の一つとして、あげてほしい。それくらいに、すごい翻訳がなされている一作なのです

どこがすごいのか、、、を説明する前に、本作がそもそもどういう内容のホラー映画なのか、あらすじを簡単にご説明しましょう。

アメリカのとある田舎町に、バタリアンと名乗る、恐ろしいゾンビの軍団が襲い掛かる。ハゲでタフなゾンビ『ハーゲンタフ』や、しわくちゃの女ゾンビ『オバンバ』など、どことなく剽軽だが恐ろしいゾンビたちに取り囲まれた町の住民たちは、果たして、無事に逃げ延びることができのか?

まぁ、こんな感じです。さて、上記のあらすじを読んだだけで、いろんな「?」が浮かんだ方もいらっしゃることでしょう。

「ハゲでタフだからハーゲンタフって、なんだか日本語のダジャレっぽくない?」
「オバンバっていうのも、日本語のセンスだけど、英語版ではどう呼ばれているの?」 
「そもそも、ゾンビ軍団の名前がどういう経緯でバタリアンになったの?」

これらの質問については、結論から言うと、「どうやら日本語版製作スタッフが、勝手に決めたらしい!」ということになります。もっとも、「日本の観客に受けるために、勝手な翻訳をガンガンやっちゃうよ」という許可はちゃんと制作側には伝えていたようです。それに対してOKを出した本作の監督はダン・オバノン。スペースバンパイアやスペースインベーダーでトビー・フーパーと組んでいた人ですね。いい人だ!

というわけで、ハーゲンタフやらオバンバやらといった本作のモンスター達、オリジナル版では特に名前はありません。クレジットでいえば、「ゾンビ1」「ゾンビ2」とか書かれている程度の手合い。それが日本語字幕版では、「あいつはハーゲンタフだ!」「あいつはオバンバだ!」と呼ばれていて、その名前が劇場販売パンフレットや下敷の「キャラクター説明」にも載っていたわけです。本作の公開当時は私は小学生でしたが、確かに、ハーゲンタフやらオバンバやらのキャラ紹介が入った下敷きを学校に持ってきている男子がいたなぁ。。。
きわめつけが、タイトルの『バタリアン』。これもまた日本語オリジナルの呼称で、原題は、”The Return of the Living Dead”。ここでReturnが使われているのは、「死者が蘇る」という意味よりも、ジョージ・ロメロの名作ホラー”The Night of the Living Dead”へのオマージュとしての意味が込められています。

「オフィシャルな続編ではないけど、先行の有名ホラーの設定をオマージュとして使っていますよ」ということで、このタイトルを意識すると、たちまち、”The Night of the Living Dead”との比較でみてしまう。そう、本作は、”The Night of the Living Dead”をリスペクトしつつパロディしている、コメディタッチの作品なのです。ところが、日本では “The Night of the Living Dead”といっても、ホラーファン以外にはそんなに有名ではないので、悩んだ挙句に、タイトルを『バタリアン』にした、と。いやしかし、どっから出てきた発想なんでしょうね、、、。

さて本作の面白みは、 ゾンビ映画のひとつには違いないのですが、「コメディタッチ」ということで、ある意味調子に乗って、”The Night of the Living Dead”に登場するゾンビなどとは比較にならないほど凄い能力を、ゾンビに与えてしまっている。荒唐無稽ともいえる圧倒的能力を与えてしまっている。たとえば。モトネタとなっている”The Night of the Living Dead”では、ゾンビを倒すには頭部を破壊すればよいことになっていますが、本作『バタリアン』のゾンビたちは、頭を破壊されても死なないどころか、腕一本、足一本になっても人間に襲い掛かってくるのです。

そんなら燃やしてしまえばと、焼き払ってみたら、その灰が雨と一緒に降ってくると墓場にいた別の死体をよみがえらせちゃう。そんな具合に、まさに無敵状態。ホラー映画史上でも最強に匹敵する設定を与えられたモンスターかもしれません。

恐怖と笑いは表裏一体ということを身をもって証明してくれているような一作が、この作品なのでした。

本作の気になる英語表現

本作は、コメディタッチな作品ということで、セリフの掛け合いで笑わせようという場面が多々あり、英語表現もいろいろ面白可笑しいものばかりなのですが、その分、キャラクターの口も汚いし、だいいち主人公たちが教育程度の悪い「アホ属性」という設定のため、そもそも英文法的にもおかしいセリフが多数。つまり、あまり真似しちゃいけない表現だらけな作品です。

ここは作品における最頻出単語に注目するという意味で、【脳みそ:brain】という英単語に注目してみましょう。

日曜洋画劇場などで本作を初見された方なら印象に残っている通り、バタリアン(と、あえて呼ばせていただきます)の口癖は、「脳みそをよこせー」。英語でも、”brains!”と言いながらしつこく追い掛け回してくるのがバタリアンの特徴です(その執念がとてもしつこいから、面白くかつ怖い、、!)。

ところがオリジナルの英語版を見ていると、このbrainという英単語は他の場面でも積極的に使われています(統計的に見れば、本作品での”brain”という単語の出現頻度は映画史上の中でもかなり高い頻度になるはず!)。たとえば、最初のほう、初めてのゾンビとの遭遇戦で、主人公たちがゾンビを倒す算段を練る際に、このような言い方をしています。ここのダイアローグのポイントは、本作品中に登場する主人公たちも、 “The Night of the Living Dead” を鑑賞したことがあり、ゾンビと戦うにあたって映画を参考にしようとしている、という点です。

In that movie, they destroyed the brain to kill them, right?
(あの映画( “The Night of the Living Dead” )では、ゾンビを殺すには脳みそをぶっ潰してたよな?)
Right.
(ああ、そうだな)
Come here, stand right over here. When it comes out, brain it with the axe.
(よし、お前、こっちへ来て、ここに立っていてくれ。いいか、奴がここを通ったら、お前、斧で奴の脳をぶったたいてくれ)
Jesus!
(ええ?!)

で、斧で頭を切断してみても、胴体が襲ってくるので何の解決にもならない、、、というか、事態はさらに深刻化していくのを受けてのダイアローグが、以下。

I thought you said if we destroyed the brain, it’d die!
(あんた、さっき、脳みそをつぶせば奴は死ぬって、確かに言ったはずだよな!?)
It worked in the movie.
(映画ではそれでうまくいっていたんだけどな、、、)

この、「過去のホラー映画を参考にして戦ってもまったく通用しない」ブラックジョークに加えて、後半になると、このゾンビ達は、brainをつぶされると死ぬどころか、むしろ生者の脳みそを生きたまま食べることに異様な執着を持つ連中であることが判明するという二重のギャグになっているわけですね。

ちなみに、バタリアンの「脳みそよこせー」は、英語では以下のような言い方になっています。

Brains!
More
brains!
A living brain!

三番目のやつは、「生きた脳みそー!」とでも訳すべきでしょうか。この場合だけ複数形ではなく不定冠詞になっているあたり、ゾンビになったとしても、やはりネイティブのイングリッシュスピーカーなのだなぁと、妙なところに感心してしまうのでした。

映画『遊星からの物体X』で英語を学ぼう!

タイトルを『物体エックス』と訳し、作中モンスターの攻撃方法を『同化攻撃』と訳したのは、いったい誰だ!?

日本であろうと海外であろうと、ネットで『物体X』ないし原題の”THE THING”を検索してみるだけで、この映画の根強いファンが、どれほど、各国にたくさんいるかがわかります。ストーリー考察にせよ、モンスターの能力解説にせよ、みんな熱心なこと。

つまり、みんな、愛に溢れている!

実際、この映画は、何度観てもいつだって、面白い!

本作こそ、日曜洋画劇場世代からの「愛され」映画なのだ!

今どきの映画からは失われた、この手作り感、ザラザラとしたビデオテープ感覚、これが。いいのです。だいいち、本作の、《凍てついたグチョグチョピクピク世界観》は、高解像度のリマスター版なんぞで観てもしょうがない。

日曜洋画劇場から録画したVHSテープを仲間内で貸し回しながら見るか、あるいは近所のレンタルビデオに自転車で乗り付けて借りてくるか。いずれにせよ、とことん、VHS程度の低画質こそが似合う世界。80年代ホラーですね!

確かに、内容は、グロテスク。でも、現代の視点で見ると、もはや笑いすら漏れてくるほどの「やりすぎメイクアップ」ばかり。現代のCGではむしろ出せない、「てづくりお化け屋敷のコワ楽しさ」。怖い。気持ち悪い。痛そう。でも、ちょっと笑ってしまう。なんて贅沢な映画体験でしょう! このような作品が、発表当時は、「青少年に悪影響を与える映画」としてBBCのニュースで非難されていたとは、今から思えばなんとのどかな話でしょうか! 宇宙からやってきた「物体X」とでもしか呼びようのない「モノ」が、次々と南極基地の隊員を「同化」していく話が、どうして少年犯罪を誘発する有害映像なのでしょうか、、、!

本作の気になる英語表現

それにしても、天才的なのは、原題の”the thing”を「物体X」と訳し、モンスターの能力を「同化」と訳した、当時の翻訳家の抜群のセンス!

だいいち、このモンスター(物体エックス?)の能力、英語では《擬態》としか説明されておりません。たとえば、最初に犬が犠牲になった直後の会話では、以下のように説明されているばかり。

That imitates other life-forms, and it imitates them perfectly.When this thing attacked our dogs, it tried to  digest ‘em, absorb them. For instance.That’s not dog.It’s imitation.
(あいつは他の生命体を擬態するらしい。そして、見事に化けてしまうんだ。
あいつが俺たちの犬を襲ったとき、あいつは犬の体を吸収し、消化し、その犬そっくりに擬態しようとしていた。
たとえば、この犬の死体だが、これはもう犬じゃない。犬を擬態したナニカだ)

これがどうして翻訳版では「あいつは他の生き物と同化するのだ」にされちゃったのか!英語版ではimitateとかmimicとか言っている。absorb(吸収)してdigest(消化)した相手に擬態(imitate,mimic)すると、わりかし、理屈っぽいことを言っている。

ところが日本語版はこれを一言で述べてしまいます。「同化した!」と。確かに、「あの未知の生物は、他の生命を食べた後にその犠牲者に化けるのだ!」と言われるより、「あの物体エックスは、他の生命に同化するのだ!」と言われたほうが、なんだかよくわからないなりに、なんか、わかるような気もする、いい感じの「理解」になる。とりあえず、「同化? やだ、同化されたくない! なんだかよくわからないが同化されたくない、逃げろ!」と本能的に思える語感がある。そう考えると、この訳語、「同化」には、「火事だ!」とか「人殺し!」とかいった言葉と同じ、「緊急事態の際にも伝わりやすいヒトコト」となっているのでした。「物体エックスだー!」とか「同化されるー!」とかいう悲鳴が近くで聞こえたら、誰だって、逃げるでしょう?

ところで、本作について、私の中には積年の疑問があります。物体エックスに「同化」されてしまった人間については、人間だった頃の記憶や知識が継承されているように見えるのですが、本人の「意識」も継承されていたり、するのでしょうか? 私としては、「継承されている」と予想しているし、そのほうが本作のホラーとしての怖さも増す解釈と思っているのですが、いかがでしょう?

映画『リバイアサン』で英語を学ぼう!

『物体X』になりたくてなれなかった深海モンスター(!)が登場。日曜洋画劇場を観て育った世代には間違いなく伝わるはずのB級テイストのフルコースディナー!

いかにも「怖いだろー?」と言いたげなシンセサイザー音が「ミヨヨヨン」「ジャカジャーン」と鳴り響くオープニングクレジットから、もう、たまりません。80年代ホラーですね!

物語が始まれば、ロボコップに出ていた人とか、ランボー2に出ていた人とか、ゴーストバスターズに出ていた人とか、80年代ハリウッド映画に通じている人なら懐かしい顔ぶれが続々と出てくる。B級映画通なら、「だいたい、この人が最初に死んで、二番目がこの人で、この人とこの人は生き残るのかな」と予想がつく。だいたい、その予想も当たる。

・・・などと書くと、なんだかバカにしているようですが、とんでもない!

私はこの『リバイアサン』というホラー映画を、とても高く買っているのです。

深海基地、という密閉された空間で、どう考えても『遊星からの物体X』に感化されたとしか思えない「変幻自在グチョグチョピクピク」なモンスター(日本の漫画でいえば『寄生獣』みたいなやつ)が、一人また一人とクルーを襲っていく。と、ありがちなホラー映画なのですが。

本作、日曜洋画劇場で放映された際、小学生だった私をかなりビビらせてくれた、少なくとも私の記憶の中では忘れがたい逸品なのです。タイトルロゴを見ただけで子供時代の恐怖心が蘇る! これぞプルースト感覚とでもいいますか、いやそれは言い過ぎか。

何がそんなに怖いのか。

このモンスターの、設定が、です。

このモンスターの「設定」は、、、残念ながら表現力が追い付いていないところがあるので、「設定だけ」は、というべきかもですが、、、他のホラー映画のモンスターたちが超えられないはずの限界を、かるく、突破している。

それは、こういうことです。どんなホラー映画でも、けっきょくのところ、「死が怖い」という限界は超えられない。チェーンソーでぶった切られようが、オノで頭を勝ち割られようが、「痛そう」とか「苦しそう」とかいう違いはあれど、いったん殺されたキャラクターはそれで退場。「死人」として扱われます。死んだら、仏様です。そりゃ当然ですよね。

ですが、本作品のモンスターに襲われた場合は、死ねばおしまい、というわけではない。殺されたあとのほうが、恐ろしい。

詳細な説明が映画の中でなされているわけではないのですが、いろんな状況から判断するに、この映画に登場するモンスターは、どうやら、殺した相手を吸収してしまうようなのです。吸収ってなんのことか? ドラゴンボールでいう魔人ブウの吸収を思い起こしてくれてよいのですが、殺された人間が遺伝子レベルでモンスターと融合してしまう。グチョグチョネバネバした怪物の体の一部に自分がなってしまう。早い話が、殺された後に、自分の頭部だけがモンスターの体から生えていて「苦しいよお」な表情を浮かべて悶々としている。これはイヤだ。しかもどうやら、モンスターに殺されるのが嫌だから自殺した人も、取り込まれた後は、けっきょく、モンスターの一部として生かされてしまっているらしい。これは反則技!

殺される恐怖を超越して、「バケモノのカラダの一部になって生き続ける恐怖」を演出した、とんでもない設定のモンスター。このアイデアは秀逸であり、小学生時代の私は震え上がるほど怖く、それゆえに夢中になって本作を(日曜洋画劇場で)徹底鑑賞してしまったのですが、その設定を活かしきれていない脚本や演出がなんとも残念(決して脚本や演出が下手なわけじゃないですよ。しかし、なんというか、やはり、、、すべてが、B級テイストなのです)。

でも、あえて、オススメしてしまいましょう。面白いのですよ、これは!怖いのですよ、これは!

主人公たちの所属する会社が悪徳企業だったり、鬼上司の狂った判断が事態をますます深刻化させていく引き金になったり、ウォークマンを聴いていたために後ろから忍び寄る影に気づかないタンクトップ美女というお決まり事があったり、とか、そんな何から何までの80年代のB級テイストには、なつかしさに涙が出てくる、、、はず、です。

本作の気になる英語表現

この作品を英語で鑑賞することで是非、学んでほしいのが、遺伝子変異系のモンスターに襲われた時に便利な表現。いざというときのため、以下の単語は、特に、是非、覚えておきましょう。

Genetic alteration

深海基地に滞在しているとき、ドクターが、深刻な顔をして、あなたにこう言ってきたとします。「なあ、、、信じてもらえないかもしれないが、、、あの死体を調べたんだが、見たこともない遺伝子構造を見つけたんだ。きっと、、、genetic alterationに違いない」

そこで、「genetic alterationって何?」と聞き返していたら、あなたはたぶん「次に殺されるウザイ東洋人キャラクター扱い確定」ですよね。そうならないための英語力です!この例にかぎらず、ホラー映画の世界に紛れ込んだら、間違っても「モンスターの能力を説明するきっかけを与えるアホの子属性」の役回りを取ってはいけません。次の犠牲者フラグが経ちます。

genetic alteration=遺伝子変異。

「これはgenetic alterationに違いない!」と叫べる知性派ポジションをさっさと取ってしまえば、あなたの生き残り率は多少は上がるでしょう。少なくとも、最後から二番目に殺されるくらいの役回り、クライマックスにモンスターに一矢報いる程度の見せ場があるキャラクターには、なれるでしょう。

その他、面白かった表現が、こちら。

Don’t fuck with Mother Nature!

「母なる自然を✖︎✖︎✖︎するな!」な毒舌。このセリフはどう使うのか? もちろん、遺伝子変異を起こすバケモノを生み出した科学者や悪徳企業に対して毒づく時に使うのです。まさにこの手の映画で使いたい英語表現筆頭ではないでしょうか? F✖︎✖︎✖︎ワードに、マザー、がかかっているという、ちょいとした駄洒落にもなっておりまする。

『悪魔のいけにえ』で英語を学ぼう!

タイトル: 悪魔のいけにえ
監督: トビー・フーパー
製作年:1974年
オススメ度:★★★★★(最高5点)

作った監督自身も二度とこれを超えられなかった衝撃のデビュー作にして、20世紀アメリカンホラーの奇跡の至宝!

作品解説

誰だったかは失念したのですが、日本の映画批評家が、本作品を指して、「トビー・フーパー監督の一世一代のまぐれあたり」などと、失礼なことを言っていたのを覚えております。失礼な!確かに、トビー・フーパー監督はこの後、『ファンハウス』とか『マングラー』とか微妙なものもいろいろ生み出しましたが、『スペースバンパイア』や『ポルターガイスト』のような名作(怪作、、、?)もいろいろ生み出したぞ。

ただし、デビュー作を超えられなかった、という意見には私も賛成。この『悪魔のいけにえ』は、即興音楽バンドの生涯最高のライブ映像みたいなもので、ガッツと気概とセンスに溢れた若手駆け出しの映画作家が勢いで作ったエネルギーが全体に充溢しています。
とにかく怖い、有無を言わせぬ、ど迫力。ひとつの奇跡と呼んでもよい一作。ロック界でいえば、カート・コバーンの『ネバーマインド』のようなもの、いきなりデビュー作にすべてのパワーが注ぎ込まれてしまい、作り手本人のその後の活動がむしろ衰えていくいっぽうに見えてしまう奇怪な事態がここで起こっているのです。

そんなトビー・フーパー監督も、2017年に亡くなってしまいました。

ロメロ去り、クレイブン去り、フーパー去りで、アメリカのホラー映画界もずいぶん寂しくなりました。

あらすじ

ティーンエイジャーの一団が、テキサス州の田舎をドライブ旅行中に、一軒の古い屋敷を見つける。「ガソリンが足りなくなりそうだから、分けてもらおうかな」と、ドアをノックしてみたら、変なマスクとエプロンをつけた大男が出てきて、なんのセリフも前触れもなくティーンエイジャーのうちの一人をハンマーで撲殺。その後も順調に彼らは大男の餌食となり、最後に残ったヒロインは、チェーンソーをもってどこまでもどこまでも追いかけてくる大男から、一晩中、逃げ続けることに。

レビュー

あらすじは、もう、上記の通り。セリフも、音楽も、特殊効果も最小限で、後半はひたすら、ヒロインの逃げ惑う「キャー」という悲鳴と、チェーンソーの「ブンブンバリバリ」という音だけで構成される。

なんという低予算!

最小限のアイデア!

画質も音響も悪いので、学生映画みたいに見える。だが、これがめちゃくちゃ怖い!

偶然にも、最近流行したフェイクドキュメンタリーを先取りしているようにすら見えてしまいます。

シンプルさが生み出した迫力。これこそ、映画の作り方としてはトコトン正しいんじゃないでしょうか!? そういえば、この映画が作られているのと同時代に、フランスやイタリアでは、ゴダールやらアントニオーニやらといった偉大な巨匠たちが、「できるだけセリフも音楽も廃し、登場人物も舞台もとことん制限した」アートでオシャレな映画を目指していたわけです。そんな時代に、アメリカテキサスの若者がホラーというジャンルから一種の境地にいきなり辿りついていたと思うと、なんだか痛快です。

そしてこの映画のいいところは、

ラストに、ちゃんと、ヒロインが生き残ること!

最近はなにかと「全滅オチ」が多いモダンホラー界で、「なんとか一人は生き延びた」オチは実に清々しい。ホラー映画とはいえ、やはり、希望がなくちゃ!

また、ラストの展開で、個人的にツボなのが、大男にレンチを投げつけてヒロインの逃げる時間を稼いでくれた、まったくの通りがかりのオッサン。セリフもない一瞬の登場人物ですが、彼のおかげでヒロインは助かったところが多分にあります。「通行人」程度の役回りのオッサンがホラー映画史に残るファインプレーを記録したという点でも、なんだかいちいち、展開が非凡な名作が、本作なのでした。

でも、この文章を書いているうちに心配になってきた。あのレンチ投げオッサン、まさかあのあと、怒り狂った大男に追いつかれて惨殺されたりしてないよね、、、?

本作から英語を学ぼう!

極端にセリフが少なく、比較的セリフがある前半は正直テンポがだるくてかったるい(!)本作、セリフからの引用が難しい。というわけで、本作に登場するいくつかのシーンを「英語で表現するならどうなるか」という観点からいくつか英語表現を作ってみました(ネイティブチェック済)。テキサス州の田舎でチェーンソーを持った殺人鬼に襲撃されたとき、警察に電話をして状況を説明するのに、以下の表現がきっと役に立つことでしょう。

▼便利表現▼

  • 「内臓をえぐりだす」=disembowel
  • 「レンチを投げつける」= throw a wrench
  • 「食肉加工用のフック」=meat hook
  • 「人間の皮膚」=human skin
  • 「(鈍器などで)ぶん殴る」=batter

▼練習問題:上記の便利表現を使って英訳してみましょう!▼

  • 暗闇から大男が飛び出してきて、チェーンソーで彼女の兄の内臓をえぐりだしてしまいました
  • 男がその狂人にレンチを投げつけ、転倒させました
  • 彼女は捕らえられ、肉加工用のフックにつるされてしまいました
  • 彼のマスクは人間の皮膚で作られているように見えました
  • マスクをつけた大男がハンマーで彼女の兄をぶん殴りました

▼練習問題解答例▼

  • The big guy lurched out from the darkness and disemboweled her brother with a chain saw.
  •  A man threw a wrench at the madman and knocked him down.
  • She was captured and hung on a meat hook.
  • His mask seems to be made from human skin.
  • A big guy wearing a mask battered her brother over the head with a lump hammer.

それでは、また別のホラー映画紹介記事にて、お会いしましょう!