英語版『坂の上の雲』の「ほととぎす」の章から、正岡子規発病のくだりを英文で読む

英訳版が出版された、司馬遼太郎の歴史小説『坂の上の雲』。
その物語を追いながら、名セリフや名場面がどのように英訳されたかを勉強していくこの企画ですが、今回は、正岡子規が死病におかされていることが判明し、逆にそれをもっていわゆる文人「正岡子規」が誕生する、その場面を追っていきます。

明治二十二年、正岡子規は高等中学の寮を出て、本郷にある旧松山藩の学生寮、「常磐会寄宿舎」に移ってきています。この前年の夏に鎌倉の路上で吐血をして以来、どうも体調がすぐれなかった子規。喀血が続くため、ようやく医者に診せたところ、以下の宣告を受けることになってしまいます。

「肺がおかされている。肺結核だな」
子規はつとめて驚きをあらわさず、むしろ無表情に、ああそうですか、とうなずいた。それがこの時代のひとびとの表情の習慣であった。

“Your lungs are infected. You have tuberculosis.”
Shiki did his best not to show surprise. “Oh, really?” he said, nodding but not changing his facial expression. That was the custom of the people of the time.

つとめて動揺を見せない、という、この時代の人々の徳義を、do his best not to show surprise(驚きを見せないようベストを尽くした)としてしまうのは、翻訳でちょっとニュアンスが変わってしまっているところですが、このような微細なロスト・イン・トランスレーションはどうしても避けられないものですね。。。

子規はさすがに衝撃をうけた。しかしその自分の衝撃と悲痛さを他人のそれであるかのように客観視してながめる頸さをこの男はもっていた。

Shiki himself was shocked. Even so, he had the strength of character to be able to look objectively at his own shock and pain as if they were someone else’s.

喀血二日目に、子規は、帰郷する同郷人にあてて、以下のような凄絶な和歌を詠みます。

ほととぎす ともに聞かんと 契りけり
血に啼くわかれ せんと知らなば

We vowed to hear
the song of the little cuckoo together
not knowing that our parting
would be sung
in blood

「ほととぎす」。 杜鵑、時鳥、不如帰、子規、などとかく。和名では「あやなしどり」などと言い、血に啼くような声に特徴があり、子規は血を喀いてしまった自分にこの鳥をかけたのである。子規の号は、このときにできた。

明治を代表する文人の一人、正岡子規、誕生の段となります。それにしても、上記のような漢語だらけの文章を、英語版ではどのように英訳してみせたのかというと、ここは、以下のように、あきらめて説明調で通しておりました。

There are various terms for the cuckoo in both Chinese and Japanese, among them the Japanese word hototogisu. It is known for its intense-sounding cry, “bleeding as it sings,” as the idiom goes. Shiki, who was then coughing up blood, used this as a metaphor for himself, and, in fact, “Shiki”, the literary sobriquet we have been using all along, is another way to read the character for hototogisu. His use of this name actually dates from this time.

このあたりの、文学的な話題が多い章では、英訳者の苦心惨憺ぶりがうかがえる「必死の英訳」がたくさん見られます。この「ほととぎす」の章は特に難渋したものと推測されます。

最後に、キーワードをまとめておきましょう。

【キーワード】
lung(s) : 肺
tuberculosis(テュバキュロシス) :肺結核
little cuckoo :ほととぎす

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