フランス留学時代の秋山好古の目を通して「世界史上の四人の天才騎兵使い」のことを英語で学ぶ

ついに英訳版が出版された、司馬遼太郎の歴史小説『坂の上の雲』。
その物語を追いながら、名セリフや名場面がどのように英訳されたかを勉強していくこの企画ですが、今回は、軍事史好きや世界史好きにはたまらないくだりに入っていきます。

前回紹介した通り、実り豊かなフランス留学生活を送る、秋山好古。そんな中、彼は面白い出会いに恵まれます。フランス陸軍きっての博学な老教官と出会い、この人から徹底的に、ヨーロッパにおける「騎兵」の歴史を物語として教え込まれるのです。

この、フランス人老教官と、若き日の秋山好古の対話が、めちゃくちゃ、面白い!

そもそも、何を隠そう、この私自身と『坂の上の雲』との長い付き合いの始まり自体が、この場面をきっかけにしているのです

このブログでも何度か述べてきた通り、私が『坂の上の雲』のファンになったのは、十代の高校生の時でした。人に勧められるままに第一巻を読んでいて、このくだりに差し掛かった頃から、「三国志」やら「信長の野望」やらのおかげでもともと歴史好きであった十代の私の心は燃え始め、そして、すっかり、『坂の上の雲』にハマってしまったのです。

このフランス人老教官が、世界史上には「四人の天才的な軍事指揮官がいた」と述べ、騎兵というものを本当に効果的に使えたのは、その四人だけだった、と説明するあたりから、十代の男子高校生の心が燃える話ばかりになります(以下、女子にはついてきにくい話になります、あしからず、、、)。

かれはその四人の名前をあげた
モンゴルのジンギス汗
プロシャのフレデリック大王
フランスのナポレオン一世
プロシャの参謀総長モルトケ

In his list he named the Mongol Genghis Khan, Frederic the Great of Prussia, Napoleon I of France, and Moltke, chief of the General Staff of Prussia.

世界史が好きな一人の男子高校生が、この部分を読んで、「この四人をよくぞ選んでくれた!」と膝を打って喜び、そのまま文庫で全八巻の大河小説を読み切って、読書好きになってしまったのです。それくらいのインパクトがある「グッドチョイス」だと思うのですが、、、いかがでしょう?!

ともかく、なぜこの四人が重要なのか、フランス老教官の話をもっと追っていきましょう。

老教官にいわせると、天才的戦略家のみが騎兵を運用できるのだ、騎兵の不幸はそこにある、という。

In the professor’s view, only a strategist of genius could direct the cavalry, and that was the cavalry’s great misfortune.

「古来、騎兵はその特性どおりにつかわれた例はきわめてまれである。中世以後、四人の天才だけが、この特性を意のままにひきだした」

“Throughout history, the cavalry has only rarely been used in a way that takes advantage of its unique capacities. Since the Middle Ages, there have been only four commanders of genius who have been able to do that.

老教官にいわせると、騎兵は歩兵や砲兵とはちがい、純粋の奇襲兵種であり、よほど戦理を心得、よほど戦機を洞察し、しかもよほどの勇気をもった者でなければ、これはつかえない。

The professor’s view was that, unlike the infantry and artillery, the cavalry was a purely offensive force and could be effectively used only be someone who fully understood the principles of warfare, could discern the time to strike, and had the courage to do so.

中央アジアの大草原で、あるいはヨーロッパの大地で、大騎兵集団を動かしているこうした「世界史上のビッグネーム」のことを思うと、ロマンに胸が熱くなるのは十代の頃の私だけではないはず。「十代の頃の」「十代の頃の」としつこく書いている通り、大人になっちまった今の私はそんな昔の青臭い感慨には二度と浸れない、という悲しさもあるのですが(IT企業のサラリーマンだし、、)、初めてこの本を読んだ時の感情を懐かしさを込めて思い出しながら、今回の記事を書いた次第です。

【キーワード】
チンギス・ハン: Genghis Khan
フリードリヒ大王:Frederick the Great
ナポレオン:Napoleon
モルトケ :Moltke

もっとも、いまさら気づいたのですが、この四人のチョイス、よくよく見るとモルトケだけ、通好みで、なんだかちょっとシブいチョイスだな。。。

なにはともあれ、フランス陸軍の古参教官から、こんな楽しい歴史講釈を聞けた、秋山好古。しかし、さすがは明治軍人、ここで「ヨーロッパはすごいですね!」と引き下がるのではない。「先生はフランス人だから、アジアのことはご存知ない。騎兵運用の天才なら、たとえば日本にも二人います。それを加えて、世界の六大天才と言わねばならない」と、格好のいいことを言ってくれます。そこで好古がフランス教官に紹介するのが、源義経(鵯越の戦い)と織田信長(桶狭間の戦い)で、これを聞いたフランス人教官がやけに感心して、「そうか。今後からは、世界の六大天才ということにしよう!」と言ってくれるのが、これは小説上の演出とわかっていながらも、とても嬉しく感じてしまう、楽しいシーンなのでした

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