英語版『坂の上の雲』の「海軍兵学校」の章から、明治初期の英語エリート教育の様子を見る

英訳版が出版された、司馬遼太郎の歴史小説『坂の上の雲』。名セリフや名場面がどのように英語圏で訳されたかを見ていくこの企画ですが、今回は、「海軍兵学校(The Naval Academy)」の章を見ていきます。

前回取り上げた経緯から、大学へ入る道を捨てて、海軍に入ることにした、秋山真之。

もともと秀才であった真之は、なんなく入試を突破し、築地の新名所となっていた「海軍兵学校」へ入ることになります。

明治海軍が築地をもってその技術関連の根拠地にしたのは、すでに明治二年からであった。

The navy had made Tsukiji its base for technical training since 1869.

私たちのような英語学習者から見れば、注目すべきは、そこでの生活が、徹底した「英語漬け」の生活であったこと。

海軍兵学校の生活は、日本的習慣から断絶している。生徒の公的生活の言語も、ほとんどが英語であった。

Life at the Naval Academy was completely cut off from the customs of Japanese everyday life. For their public activities, the students spoke almost entirely in English.

教科書も原書であり、英人教官の術科教育もすべて英語で、返答もいちいち英語でなければならない。号令も大半が英語であり、技術上の術語も、軍艦の大小についての名称もほとんどが英語であった。

The textbooks were in English, as were the specialized lectures of the British instructors. Student responses to questions all had to be made in English. The majority of orders were given in English, and technical terms as well as the names for the various part of the ships, large and small, were in that language as well.

真之らが日本に居ながらにして本場の英国式海軍教育を受けられるようになったのは、それだけ明治日本の進歩といっていい。

That Saneyuki and his contemporaries were able to receive a British-style naval education while remaining in Japan was a sign of just how mush progress Meiji Japan had made.

今から見ても、英語教育という点で、実にうらやましい環境と言えるわけですが、これはもちろん、本作の主人公たちが当時の超エリート学生だから許される光景というわけで。私のような、別にエリートでもないサラリーマンでも、余暇さえ見つかればネットや図書館や英会話スクールでいくらでも自分の生活を英語漬けにできる現代のほうが、やはり、恵まれておりますな。

そう思えば、なおさら、英語学習にも気合が入ります!

ところで、どうして明治海軍が、このような「英国式」徹底主義をとったのか、というと。。。

陸軍がドイツ陸軍を模範とすることを方針としたのに対し、海軍は世界に名だたるイギリス軍を模範とすることを方針に据えたから、となります。その選択の理由は、この小説の中では、イギリスから派遣されてきた教官のダグラス少佐の言葉として、こう説明されています。

「この極東の島国の地理的環境ははなはだ英国に酷似している」

The geographical environment of this island nation of the Far East very much resembles that of Great Britain.

「英国はその国土こそ小さいが、その強大な艦隊と商船団によって世界を支配した」

Great Britain was a small nation, but it ruled the world through the power of its naval and commercial fleets.

「日本帝国の栄光と威厳は、一個の海軍士官にかかっている。言葉をひるがえせば、一個の海軍士官の志操、精神、そして能力が、すなわち日本のそれにかかっている」

The dignity and glory of of the Japanese Empire depends upon each naval officer. And, conversely, the will, spirit, and abilities of each naval officer depend on those of the Japanese nation.

ちなみに、英訳版にしつこく出てくる「naval」(ネイヴァル)は、「海軍の」という形容詞。本書『坂の上の雲』を読むには海軍関係の英単語語彙は必須単語となりますので、その導入として、navalのつく語彙を整理しておきましょう。

【キーワード】
naval:海軍の〜
a naval officer(海軍士官)
a naval academy(海軍学校)
a naval power(海軍大国)

もっとも、真之の在学中に、海軍兵学校は広島の江田島に移転します。おかげで真之にとっては、故郷の松山が近くなり、家族や同郷の仲間たちとの温かい交流が再開されるよいきっかけにもなるのですが、

物語はここで、いったん、海軍の真之のところを離れ、ドイツ式を採用した陸軍の世界の中にいる、兄の好古の物語に戻っていきます。次回は、その様子を見ていきましょう。

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