英語版『坂の上の雲』から、明治陸軍とフランス・ドイツとの関係を覗き見る

英訳版が出版された、司馬遼太郎の歴史小説『坂の上の雲』。今回は、前回取り上げた「海軍兵学校(The Naval Academy)」の章の後半部分、秋山兄弟の兄、好古の、陸軍での成長を見ていきます。

前回も記した通り、明治日本は、海軍はイギリスに、陸軍はドイツを模範としました。ですが陸軍に関しては、その方針は最初から決まっていたわけではなく、

日本陸軍は、旧幕府がフランス式であったことをひきついだ。明治三年十月、政府は、「海軍は英式、陸軍は仏式による」と、正式に布告した。

The Japanese army had continued the tradition established by the shogunate and modeled itself on the French Army. In October 1870, the government officially decreed, “The navy is to be modeled on Britain’s example, the arm on France’s.”

という次第で、秋山好古を含めた初期の陸軍士官学校の卒業生達は、むしろフランス語を徹底的に叩き込まれておりました。

この方針が大転換するきっかけとなったのが、普仏戦争でフランスがドイツ陸軍に完敗する、という大ニュースでした。以降、日本陸軍は、よくも悪くも、ドイツ陸軍を模範として成長していくことになります。

さらにこの普仏戦争の勝利は、参謀総長モルトケが独創して体系化したその戦略戦術の勝利であるといっていい。モルトケ戦術のあたらしさは、主力殲滅主義にあるであろう。戦場における枝葉の現象に目もくれず、敵の主力がどこにいるかをすばやく知り、味方の最大の力をそこに集結させて一挙に攻撃し殲滅するというものであった。日露戦争における奉天大会戦で日本陸軍がとった方法はこのモルトケの思想であるといていい

The Prussian victory was also a victory for the strategy and tactics devised and systematized by Moltke, the chief of the General Staff. What was new in Moltke’s strategy was its emphasis on annihilation of the enemy’s main forces. He was uninterested in nonessential battlefield details. He tried immediately to determine where the enemy’s main forces were, concentrated his side’s strongest forces precisely there, launched a fierce attack, and thus overwhelmed the enemy. The methods adopted by the Japanese Army in the great battle of Mukden in the Russo-Japanese War were based on these ideas of Moltke.

こういうものを読むと、いかに、普仏戦争におけるドイツ(当時はまだ「プロイセン」)の完勝というものが世界史に巨大なインパクトを残したかがわかります。日本でもファンが多い(と個人的には思う)ドイツ陸軍の名参謀総長、モルトケの名前が出てきましたが、ここでついでに、十九世紀ドイツ陸軍関連の用語を整理しておきましょう。

【キーワード】
普仏戦争:Franco-Prussian War
参謀総長:the chief of the General Staff
殲滅・全滅・圧勝:annihilation(アナイアレイション)

日本陸軍がその制度を模範としたというドイツ参謀本部の歴史を詳しく知りたい方は、以下の渡部昇一氏の著作がオススメです。渡部昇一は英語学の名著を出している傍らで、こんな軍事オタクな入門書も出してくれているのです。

ドイツから教官を呼び寄せ、陸軍の若い秀才たちも続々とドイツに留学していく中、秋山好古は、ちょっとした運命のいたずらで、注目株のはずのドイツ陸軍ではなく、フランス陸軍に留学することになります。しかしそれはそれで、好古が五年間をかけてパリに留学したことが、少なくとも日本の「騎兵」の発展にとっては重要な布石になるのです。その、好古のフランスでの修行生活を、次回は見ていきましょう!

⇒次の記事へ

「歴史小説『坂の上の雲』の英語版(CLOUDS ABOVE THE HILL)を読もう!」のトップページに戻る

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です