トワイライトゾーンで英語を学ぼう!第30回 :A Quality of Mercy

エピソードデータ

タイトル:A Quality of Mercy
日本語版タイトル:日本軍の洞窟
エピソード番号:#80 (第3シーズン)
放送日:December 29, 1961
脚本 : Rod Serling
私のお気に入り度:ベスト30

あらすじ

1945年8月、太平洋戦争の最終局面の、ある日。

フィリピンのアメリカ軍前線の一つに、若い少尉が赴任してきます。

赴任先の小隊は、折しも、日本軍の一部隊を洞窟の中に追い詰め、とどめとなる総攻撃の直前。ただし現場の小隊長は、「洞窟の中の日本軍は飢えと疲労で限界が近いので、これ以上の無益な殺生は不要、日本の降伏まで、洞窟から出てこないように見張っていれさえすればよい」と主張し、無理攻めを保留にしている状態でした。

しかし、到着したばかりの少尉は、若くて功に焦っているところであり、現場のその判断が気に入らない。「眼前の敵を一人でも多く破壊することこそが軍としての義務だ」と主張し、洞窟への総攻撃の準備を強行しようとします。しぶしぶ、戦闘の準備を始める兵士たち。

ところが、その若い少尉がはずみで双眼鏡を落とした瞬間に、奇妙なことが起こります。顔を上げた少尉の周りにいるのは、なぜか、日本兵ばかり。しかもその日本兵たちは、「少尉どの、いかがいたしましょう!ご命令を!」と、自分を頼ってくる。

どうやら、突然、アメリカ軍少尉は、日本側の将校と人生が入れ替わってしまったようです!さっきまで人間とも思っていなかったジャップ側の、しかも部下たちを抱えた上官の立場を味わうことになった若いアメリカ軍少尉の下す決断は、、、!

評価

はっきり言うと、いささかおセンチすぎて、展開も甘く、オチも見え透いていて、完成度としてはあまり評価できないエピソード。

ですが、なんだか、泣けるエピソードです。その理由は、以下の二つ。

・私が日本人なので、「日本側の立場にも立とう」というコンセプトのエピソードにはどうしてもホロリとくる

・そして私が、トワイライトゾーンの作者であるロッド・サーリング氏が、太平洋戦争の実際の従軍者であったことを、伝記的事実として知っている

サーリング氏には、自身の作品の中に反戦や平和主義のメッセージを挟み込んでくる傾向があり、かつ、正直、そういうときの彼の作品は「あざとすぎる」ところがあって失敗作が多いのですが

本作は、彼の太平洋戦争の記憶が昇華された作品として、なんだか、胸にジンとくる仕上がりなのでした。もっとも、それは私が日本人だからなので、純粋にアメリカの方がこのエピソードを見たら、評価はもっと低いかもしれません。

もうひとつ、本エピソードについてのトリビアですが、実はこの作品、八十年代に製作された『劇場版トワイライトゾーン』の第一エピソードのモトネタとなった作品でもあります。劇場版のほうは、太平洋戦争ではなく人種差別問題を背景にしており、かつラストがぜんぜん違う展開なので、似ても似つかない出来になっちゃっておりますが。

作中の気になる英語表現

本作の英語表現で注目すべきなのは、タイトルの、A Quality of Mercy。

実はこれ、シェイクスピアの『ヴェニスの商人』に出てくる名セリフ、”The quality of mercy is not strained”からの引用なのです(ただし、本作のタイトルのほうは、定冠詞ではなく不定冠詞になっている。これはこれで英語学習者としてはちょっと面白いサンプル!)。

シェイクスピアに詳しくない人のために『ヴェニスの商人』のあらすじを簡単に説明すると、以下のような感じ。

ヴェニスの高名な商人、アントーニオは、親友を助けるために、商売敵のユダヤ商人シャイロックから大金を借りることにする。普段からアントーニオに恨みのあるシャイロックは、ここぞとばかりに、「もし三ヶ月以内に借金を返せなかったら、胸の肉1ポンドを削り取る」という無茶な条件を担保に要求する。男気を見せるためにもその条件を呑み、親友を助けたアントーニオだが、その後事業に失敗が起こり、三ヶ月以内にシャイロックに借金を返せるあてがなくなってしまう。シャイロックは、普段の恨みを晴らせる機会と大喜び。事態は裁判沙汰になるが、アントーニオの友人が、借金を肩代わりして倍にして返すと申し出ても、シャイロックは「あくまでも約束通り胸の肉を削り取る(=ナイフで殺す)と言って、きかない。だがそこに、法律家に変装した、本作のヒロイン(アントーニオに助けられた「友人」の婚約者)が現れ、見事なロジックでシャイロックをやりこめ、アントーニオを助け出した上に、むしろシャイロックを死刑と破産の縁に立たせ、助けるかわりにキリスト教徒に改宗させることに成功する。こうして、ヒロインの見事な「逆転裁判」によって、登場人物たちはみんな(シャイロックを除いて、、、)、めでたしめでたし!

私自身も、シェイクスピアの『ヴェニスの商人』が大好きなので、トワイライトゾーンの本エピソードのタイトルに引用されていたのは何とも嬉しい限り。the quality of mercyというセリフはどこで出てくるかというと、上述のヒロイン、ポーシャが、法律家に変装して裁判に乗り込んできて、「逆転裁判」でやっつける前に、まず、シャイロックに「穏便和解」を持ちかけるところ。ポーシャはシャイロックに、以下のように言います。The quality of mercy is not strained(そもそも慈悲の心というものは優しく普遍的に広がるもの)。この「not strained」部分の翻訳はかなり難しく、どうしてもこんな「意訳」になってしまいますが、、、。まあ、シェイクスピアの有名セリフはだいたいこんなふうに「直訳不可能」なので仕方ない。

このThe quality of mercy、有名セリフなので、スピーチや手紙の決め台詞としても、現代英語でちゃんと使えます。使い方としては、「慈悲というのは万人に注ぐものだ」という、キリスト教的でありながらも普遍的な価値観(と、少なくとも私は思う)を述べているので、私だったら、海外からの観光客を仏像展や寺院に案内しているときに、「仏教でいう仏様とか菩薩とかいったものは、穏やかな顔をしてただただ優しい慈悲の心をあまねく万人の上に降り注いでくれる存在として信仰されています。The quality of mercy is not strainedという、シェイクスピアの名セリフに表わされている考え方が近いです」と、日本の宗教や信仰の世界を説明するのに使いたい言葉ですね。

シェイクスピアの『ヴェニスの商人』では、このような「慈悲」の概念を理解してくれなかったユダヤ商人のシャイロックが、最後にはやりこめられ、強制的にキリスト教徒に改宗させられてしまいます。そこには、ハイ、たしかに、シェイクスピア作品にどうしてもつきまとう、時代的な限界、ユダヤ差別の問題もあるのですが、その話題は深いので、ここでは措いておきましょう。

それよりは、トワイライトゾーンの本エピソードのラスト、「日本側の立場」を経験してしまった若い少尉の苦悩の顔に、このThe quality of mercy is not strained部分の、ロッド・サーリング自身による朗読がオーバーダブされるシーンに、素直に、胸打たれておきましょう。ロッド・サーリング氏の反戦の願いに、さて、今日の我々の世代はどこまで応えられているでしょうか。

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