Argo(アルゴ)を読んでの書評—脚色の強い映画版よりも、地味なノンフィクションである原作のほうが僕には数段面白かった

ベン・アフレックによる映画化で有名になった『アルゴ』の原作を読んでみました。
原題は、Arugo: How the CIA and Hollywood Pulled Off The Most Audacious Rescue In History(アルゴ:いかにしてCIAとハリウッドは、歴史上稀に見るほどの大胆な救出作戦を成功させたか?)。
とても真面目な、元CIA諜報員による回顧録だ。

課題を与えられ、仲間と必死にブレストし、解決方法を見つけ、周到に練り上げ、当日に準備通りに実行する。
と、いう、とても地味な活動が、巨大な成果に結びつく(救出不可能と思われていた外交官を無事に敵国から脱出させる)、
ということでは、なんだかプロジェクトXのようなところもある本だ。
ただ、仕事の手の内を明かしてくれているのが、CIAのトップエージェントなのだから、
読んでいて、「やはりプロの仕事はすげえな」と、襟を正してしまう。
仕事に熱意をもっているビジネスマンであれば、本書の著者の、仕事への取り組みの熱心さには、おおいに胸打たれるところがあるのではなかろうか!?

映画版を知らない方のために、簡単にあらすじを説明しておくと、以下のようになる↓
↓  ↓  ↓
イラン革命後に起こった「アメリカ大使館襲撃事件」が、物語の背景。
この事件で、現場(つまり襲撃された大使館)から、かろうじてアメリカ人職員6名が、逃げ出すことに成功した。
彼らは、どこもかしこも敵だらけとなったイランの首都テヘランの中で(みんながアメリカ人を見たら当局に差し出す気まんまんでいる!)、
カナダ大使の保護を受けることで、どうにか、隠れ家を見つける。

だが、もし、隠れ家に潜んでいるところが見つかったら、
確実に彼らは、イランの治安当局に逮捕され、人質にされ、最悪の場合は処刑されるだろう。
しかしテヘランに、救出部隊を送り込むことは不可能だ。かといって、見殺しにすることも、もちろんできない。では、どうすればよいのか?

そこで、著者の、アントニオ・メンデス氏のチームに、CIA本部内で特命が下る。
手段はなんでもよいので、六名の外交官を、敵国の首都の中で見つけ出し、そこから救出して、アメリカ合衆国に連れ帰る方法を探せ、と。
「英語教師の研修グループに変装させよう」とか、「陸路でトルコに逃がそう」とか、いろんな方法を考えるのだが、どれも、ダメ。
そんな中で、ついに思いついた奇策中の奇策が、

「潜伏中の六名に、ウソの経歴を用意し、全員がハリウッドの映画業界で働いている業界人、ということにしてしまう。
すなわち、最近成功したスターウォーズ(本書の背景は70年代末)のようなSF映画のロケ地を探すために、わざわざイランにやってきた、
ハリウッド映画界のプロダクションの職員だということにしてしまう。
架空の惑星を舞台にしたSF映画を撮影するロケ地を探している映画人ということにすれば、
革命で混乱しているイランにわざわざ仕事で来ている、という説明をしても信憑性が出るだろう」。

最初は無茶に思えたこの作戦だが、検討すればするほど、これこそが「唯一、成功の見込みがあるプラン」と思えてくる。
アメリカ大統領のOKまで得た上で、主人公たちは、
ウソのプロダクションを、ハリウッドの町中に設立し(イランの治安当局が怪しんで調べても、ちゃんと稼働中の電話番号が見つかるようにするための工作!)、
ウソの映画広告を、本当に映画雑誌に掲載し、きちんと、ウソの映画脚本や、絵コンテ(!)まで準備して、イランに乗り込んでいく。。。
そのウソ映画のタイトルが、『アルゴ』であった。
↑ ↑ ↑

・・・と、あらすじを読んだだけでは、一種のキワモノのように聞こえるかもしれないが、
「イランの当局者が怪しんだら、名刺に書いてある電話番号に国際電話をかけてくるだろう」→本当にプロダクションを設立し秘書を雇って「開業」させておく。
「イランの当局者が怪しんだら、映画雑誌を調べるかもしれない」→本当に広告出稿をしておく。
などなど、事前に、「考えられるかぎりの事態」を想定しておいて、手を打っておくプロセスが、まさに「プロの仕事だな」と感心させる。
僕自身も企業で働く組織人として読んで、なんだか、感動してしまった。仕事ってのはこうでないとね。

本書は、ノンフィクションなので、それほど劇的な事件は起こらず、淡々と進んでいく。
それでも、事実は小説より奇なり、「ウソのSF映画企画をでっちあげて、そのウソ企画をもとに、敵国内で指名手配されている外交官を映画業界人に変装させて、
まんまと空港から堂々と出国させる」という大胆な作戦が、いかに企画され、本当にうまくいっちゃったか、の事例報告として、めちゃくちゃ面白い。
だいいち、この物語、シチュエーションは極限常態の危機のはずなのに、どこかユーモラスで、痛快で、笑ってしまう。

そして最終章、あれから二十年ほどが経過した「現在」の話題になり、
救出された六人と、救出作戦を指揮したCIAチームが、バーベキューで「同窓会」を開き、
「ウソ映画『アルゴ』に乾杯!」とするシーンには、なんだか、涙が出そうになった。
仕事に成功したあとの飲み会・食事会というのは、かくありたいものですね!

本書の締めの言葉は、
“We’d saved the lives of six people — not a bad haul for a film that never existed.”となっている。
「実際に封切られなかった映画が六人の人間の命を救ったなんて、それはそれで映画史上に残る成功事例じゃないか?」とでも訳すべきニュアンスか。
たしかに、映画ファンとしても、この物語には何かしら、素敵な魅力を感じる。

事実は小説よりも奇なり。
使い古された言い方だが、まぁ、そういうことなのだろう。

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